看護物語

一言に込められた深い想いに応えて

2010.08.01

うしおだ在宅クリニック

『クララが立った!』そのとき私はハイジの気分

003-1『クララが立った!』は、“アルプスの少女ハイジ”の中に出てくる言葉です。
本当は歩けるはずが思い込みで歩かずにいたクララが、初めて自ら立ち上がり一歩一歩と歩く姿を見て喜んだハイジが叫んだ言葉です。その当時、テレビの前で感動の涙を流した少女は私だけではないと思います。

さて、私の記憶に残る体験は、複数の疾患をもち急性硬膜下血腫のため他院で緊急手術をして、リハビリ加療のために転院。誤嚥性肺炎を1回起こしただけで胃瘻造設承諾書を突きつけられ、断ると退院を迫られ、療養型入院も他の往診も断られ、数ヶ月間いろいろと探し回って当クリニックに辿り着いたOさん(75歳女性)との関わりです。

当初から、自発性低下が著しく寝たきりで、特定の人に1日で二言・三言しか話さない状態でした。経鼻経管栄養のためいつも痰が絡み、検査データは感染徴候を示していました。そして、夫には非常に強い医療不信が根づいていました。

初めのうちはOさん夫婦が“何を求めているのか”“どうしていきたいのか”などを聞き取っていくこともままなりませんでした。根気よく誠意ある態度で接し続け、ケアマネージャーを中心に訪問看護などとも連携を取る中で『いずれご飯を食べさせたい。』という望みがあることを知ることができました。経鼻経管から胃瘻への変更を本心から納得し実施できるまでに、なんと 7ヶ月もかかってました。

その後 胃瘻造設ができ、感染リスクも低下して体調も安定。少しでも刺激になればと訪問時にはできるだけ話しかけ、最後に『Oさんはどう思う?少しずつでもいいから教えてね。』と声をかけていましたが、しばらくのうちは全く返事のない状態が続いていました。

003-2往診開始から9ヶ月目のある日、いつものように『採血に来ました。できるだけ痛くないようにしますね!』の声かけに『いいわよ』(!?)

その後ケア中には言葉はなく『じゃあ今日は帰ります、また来るときはもっとお話ししましょうね。』のあいさつに『もう帰るの?』(!!)としっかり答えてくれました。私はその時、思いっきり『クララが立った!』な気分になりました。たった二言ですがとてもうれしく新鮮な出来事でした。

往診の看護師は患者さんとは一生涯の長いお付き合いです。どうやって今後の人生を病気と付き合っていくか、患者さんや家族をどう支えていくか、悩みはとても多いのですが患者さんを見送った後もご家族と笑顔で思い出話しができるようになりたいなと思います。